あたしが眠りにつく前に
 特に彼、塚本君には性格の裏表がない。帆高を自分に都合の良い存在とみなさず、何も悩みが無いんじゃないかと思えるほどの澄んだ瞳で笑いかける。

そこには魂胆、へつらい、妬みといった負の感情は一切含まれていないことは、十分すぎる程伝わってくる。だから帆高はより素直になれる。性根の口の悪さをさらけ出さずにはいられないぐらいに。

 『帆高は塚本君のこと、実はかなり気に入っているんだよ?』

時々本人にそう教えてあげたくなるが我慢する。歓喜する彼の姿を見てみたい気もするが、その密告を裏切りとみなされて絶交されかねない。

やはり自分の事情が最優先。彼には悪いが、自ずから帆高の真意を悟ってくれる事を祈ろう。

 ともかく、帆高自身まだ彼らにすら一線を引いているところがある。でもいずれは、半分溶けた帆高の心を完全に解凍してくれる日が来るだろう。

 そうしてやっと、男性として当然の異性への関心を持つようにもなってくれるはず。同姓との人間関係にも疑心暗鬼になりがちな帆高にはまだ難しいとしても、そう願いたい。

 真の友人よりも、家族よりも、ただの幼馴染にすぎないあたしなんかよりも。

誰よりも愛しく思えて、仮面をかなぐり捨てて弱さをさらけ出せて、常に一緒にいたいと願う女性(ひと)が現れたなら。

あたしは心の底から祝福するから。かゆいと思うほどの惚気だって、いくらでも聞いてあげるから。‘君の隣’という特等席をすぐに明け渡すから。

 だから…せめてその時まで、自惚れさせて。現段階において、君にとっての一番近い存在はあたしなんだと。

 一時感じた‘言葉で言い表せない微妙な心持’、新手の病気と疑った感覚の正体がここで分かった。あれは嫉妬だ。

 あの帆高が女の子と親しげに話していたのが何となく面白くなかった。‘コウサカさん’はきっと素敵な子なんだろうと予想して、虚しくなった。

要は帆高を取られた気がしたのだ。元々あたしの物になったことなど一度だって無いけれど。
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