あたしが眠りにつく前に
「ねぇ、珠結って夜に何かやってるの?」

 ギクリ。漫画だったなら、その定番の効果音が大文字で分かりやすく描かれていただろう。

「塾とかの習い事の話? 何もやってないけど、どうして?」

 珠結は努めて自然に問い返す。

「だって夜は電話もメールもするなって言うし、気になってたっていうか。女子高生なんだし、ありえなくない?」

「あ、前に連絡網で家に電話した時、おばさんが『珠結は今出られない』って言ってたことあった。確か9時頃だったと思うけど、まさか夜遊びしてた!?」

「その時なら私、珠結のお母さんから電話もらったよ。てっきり珠結が面倒くさがって押し付けたのかと…」

 珠結の前後の名簿順の少女達が声を上げる。「熟睡してた」の正直な弁解は完全にNG、厄介な方面に話が走り出した。

「ちょ、まるでアリバイ確認じゃないの。ちゃんと毎日家にいるから! その日はたまたま…親戚の家に泊まってただけだよ!」

「ホントー? あれ、でも珠結。親戚はいないって言ってなかった?」

 苦し紛れの嘘が、裏目に出た。自身は話した時の記憶は無い。どうでもいい話は意外と覚えているものだと、この場で痛感したくはなかった。

「珠結、とりあえず立ちなよ。スカート、汚れるよ」

 意外なプチ不良疑惑の追及の輪から一歩引いていた保健委員の彼女が、助け舟を出してくれた。本人にそのつもりがあったのかは分からないが、今は気にしていられない。

「そだね。あ、手貸してくれる?」

 まだ覚醒し切っていないため、一人で立てそうにない。体が重く、まるで赤ん坊を背負っている感じがする。珠結は彼女が不思議そうに差し出した手につかまり、足に力を入れる。

少しよろけたものの、彼女がもう片方の手で珠結の手首を掴んで自分の方へ引っ張った。さらに、勢いがついた所を受け止めてもらう。

「ありがとー、助かったよ。…もう、いいよ?」

 珠結は立ち上がったのに、彼女は目を細くして手を離そうとしなかった。珠結に再び声を掛けられてやっと、そっと離す。

「…珠結、やけに」

 彼女はそれだけ言うと、なぜか口ごもった。珠結より1つ名簿が早い少女が彼女の顔を覗き込む。しかし、彼女の目は珠結に向けられたまま離れない。
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