あたしが眠りにつく前に
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「…今日は厄日? 仏滅だったっけ」
はたまた自分の星座は最下位だったのだろうか。毎朝寝坊尽くしの珠結には朝のニュースをチェックするゆとりは無く、ましてほんの5分程度の占いコーナーなど言わずもがなで。
それ以前に珠結は占いそのものをあまり信じる方ではなかったが、今日は何でもいいから理由が欲しかった。とにかく自分を納得させたい気分だった。
だから今日のあたしはツイていないのだ、と。
色々とバタバタした掃除時間が終了し、眠気が微妙に残りながらも教室に戻った所は良かった。しかし掃除場所だった美術室の流し台にハンドタオルを忘れたことに気付いた。Uターンして無事にブツを手にする、ここまでも…まだ、良かった。
が、そこで備品整理をしていた美術教師と鉢合わせした。直後、嫌ぁな笑みを向けられたのが運の尽き。逃げようとするも肩を掴まれて拘束されて…
裏庭の倉庫への備品運びを命令された。
あの時の‘パシリ発見’の不吉な笑みは、思い出すたびにムカムカしてくる。あれでも生徒には受けがいいのだから、世界は不条理だと珠結は思う。
ダンボール箱は珠結が歩くたびにジャラジャラと音を立てる。中身の正体など、どうでもいい。問題はこの重さだ。絶対にかよわい女子に持たせる量ではない。
個人的に恨みを買うようなことをしただろうか。珠結たち一年生の美術の授業を受け持っているのはあと数年で定年を迎える、おばあちゃん先生だ。よって30代半ばらしい、優男風のドS疑惑大のあの教師とは面識すらない。
どうせ言うことを聞かせやすいカモを見かけたから、問答無用で引きずり込んだのだろう。珠結は大きくて深い溜息をついた。
こんな面倒事、さっさと終わらせてしまうのが一番だ。そして一刻も早く教室に戻って、行かなくては。
彼が、待っている。
珠結は一度、廊下の床に箱を置き、掌を開いて閉じるのを繰り返す。少しは痺れがマシになった所で、気合を入れて持ち上げる。
ほんの少し歩幅を広くし、ほんの少し歩調を速くする。内心、美術教師への暴言を吐き散らしながら、珠結は目的地に向けての歩を進めた。