あたしが眠りにつく前に
「突然なんだけど、――君さ、彼女いないよね?」
「うん、いないよ」
「じゃあ、好きな人は…いる?」
「………いないけど」
「そっか、良かったぁ」
視線の先の倉庫の扉の脇には、向き合った二人の生徒。片方の少女の顔は赤く染まり、言葉少なな少年の返事を聞くと、安堵の笑みを浮かべて大きく息を吐いた。
少年は嫌というほど知っている人物だが、やや緊張した面持ちの少女の方は見覚えがあるものの名前が思い浮かばない。いつ、どこで見かけたのだったっけ。
少女はちゃんと靴に履き替えているため、上履きのスリッパの色で学年を判断することはできない。だが見た目や雰囲気で、同級生かもしれないと珠結は判断することにした。
そんなことより、逃げ出したい。珠結は少女が誰なのかを思い出そうとするのではなく、この場の離脱の念に駆られていた。先の展開が読めるだけに、決まりの悪い思いが強くなる。
「あのね、わたし、一之瀬君が好きなの! だから…付き合ってくれないかな」
帆高の目をしっかり見ながら、少女は告白の文句を口にした。勇気を振り絞ってか、その声はかすかに震えている。
あぁ、やっぱりそう来ると思った。放課後に人気の無い場所で男女二人きり、告白の殿堂パターンとしか言いようが無いではないか。
人の告白現場に居合わせるほど気まずいことはない。どこかの家政婦のように他人の秘密現場を覗き見るのが趣味の人種もいるが、珠結には当てはまらない。
知人が関わっているとなれば尚のこと、目を逸らしたくなる。興味よりも気まずさが勝る。
早く用事を済ませて立ち去りたいが、二人はよりにもよっての位置にいる。「ちょっと失礼しますね~」と二人の側を通り過ぎられるほど、KYではないと自負できる。
出直すことも考えたが一時とはいえ、荷物を放置するのはよろしくない。荷物の重さを思えば、余計な距離を歩きたくないのが本音だ。
ごめん、乙女さん。人が絶対来ないと思ってこの場所を選んだのだろうが、完全に場違いな人間がいてしまって。
絶対に誰にも言いません。木石のように、できるだけ無心になって引っ込んでいます。でも、自然に耳に入ってきてしまう分は、許してください。
珠結は目線を外し、木の幹に頭と背中を預けてもたれ掛かった。
「うん、いないよ」
「じゃあ、好きな人は…いる?」
「………いないけど」
「そっか、良かったぁ」
視線の先の倉庫の扉の脇には、向き合った二人の生徒。片方の少女の顔は赤く染まり、言葉少なな少年の返事を聞くと、安堵の笑みを浮かべて大きく息を吐いた。
少年は嫌というほど知っている人物だが、やや緊張した面持ちの少女の方は見覚えがあるものの名前が思い浮かばない。いつ、どこで見かけたのだったっけ。
少女はちゃんと靴に履き替えているため、上履きのスリッパの色で学年を判断することはできない。だが見た目や雰囲気で、同級生かもしれないと珠結は判断することにした。
そんなことより、逃げ出したい。珠結は少女が誰なのかを思い出そうとするのではなく、この場の離脱の念に駆られていた。先の展開が読めるだけに、決まりの悪い思いが強くなる。
「あのね、わたし、一之瀬君が好きなの! だから…付き合ってくれないかな」
帆高の目をしっかり見ながら、少女は告白の文句を口にした。勇気を振り絞ってか、その声はかすかに震えている。
あぁ、やっぱりそう来ると思った。放課後に人気の無い場所で男女二人きり、告白の殿堂パターンとしか言いようが無いではないか。
人の告白現場に居合わせるほど気まずいことはない。どこかの家政婦のように他人の秘密現場を覗き見るのが趣味の人種もいるが、珠結には当てはまらない。
知人が関わっているとなれば尚のこと、目を逸らしたくなる。興味よりも気まずさが勝る。
早く用事を済ませて立ち去りたいが、二人はよりにもよっての位置にいる。「ちょっと失礼しますね~」と二人の側を通り過ぎられるほど、KYではないと自負できる。
出直すことも考えたが一時とはいえ、荷物を放置するのはよろしくない。荷物の重さを思えば、余計な距離を歩きたくないのが本音だ。
ごめん、乙女さん。人が絶対来ないと思ってこの場所を選んだのだろうが、完全に場違いな人間がいてしまって。
絶対に誰にも言いません。木石のように、できるだけ無心になって引っ込んでいます。でも、自然に耳に入ってきてしまう分は、許してください。
珠結は目線を外し、木の幹に頭と背中を預けてもたれ掛かった。