あたしが眠りにつく前に
「…悪いけど、付き合うことはできない」
少しの静寂の後、帆高の毅然とした声がした。話の内容を前もって予測し、すでに答えを用意していたかのように、迷いは感じられなかった。珠結は無意識に息を吐いていた。
帆高は口に出さないが、過去の告白の回数は手足を合わせた指の数にのぼることを知っている。貫いている冷静さは、場慣れのためによるものか。
ちなみに珠結が告白現場を目撃するのはこれで3度目。だから気まずくはあるも、あまり驚きはない。初めて出くわした時は叫びそうになって、危うくバレそうになった。
引く手数多でも、なぜか帆高はずっとフリー状態を通してている。彼女いない歴=年齢。いわゆる草食男子で、色恋云々には興味は無いのかもしれない。
『帆高って男が好きなの?』
素朴な疑問によるストレートな問いの直後、両頬を千切れそうなぐらい引っ張られたのは遠い記憶ではない。その無言の全否定は十分伝わり、以来口にもしないし疑ってもいない。
「あ。嫌な女だな、あたし」
帆高が断った瞬間、安心した自分がいた。
彼女がフラれてしまえばいい。そう思っていたつもりではないが、反応からして「こうなる事を期待していたんだろ」と責められれば、言葉に詰まる。
ただ、今回の相手は分からないと思っていた。自分ほどの長さではないが長く伸ばした髪はまっすぐで柔らかそうで、念入りな手入れが窺える。手足は細くて背は低すぎず高すぎず華奢で、横顔は凛としていて快活さもにじみ出ていた。
言うなれば上玉、逃がすには惜しい女の子だ。遠目からでも、断言できる。
だから、もしかしたら…の可能性も頭に入れていた。会話の内容が聞き取れるぐらいに近づくまでに聞こえていた声の感じは、とても砕けていた。親しい間柄であることに間違いは無かったのだ。
「汚い感情。早く帆高離れしなきゃな」
首を傾けて垣間見ると、少女は呆然とした表情で佇んでいた。その姿に、当事者でなくとも胸が痛む。
もうそろそろか。珠結がスカートのポケットに手を突っ込んだ時、少女が口を開いた。
「で、でも、私のこと嫌いじゃないよね? だったらお試しで付き合ってみてくれない? 段々好きになっていく可能性だって、あるかもしれないでしょ?」
少しの静寂の後、帆高の毅然とした声がした。話の内容を前もって予測し、すでに答えを用意していたかのように、迷いは感じられなかった。珠結は無意識に息を吐いていた。
帆高は口に出さないが、過去の告白の回数は手足を合わせた指の数にのぼることを知っている。貫いている冷静さは、場慣れのためによるものか。
ちなみに珠結が告白現場を目撃するのはこれで3度目。だから気まずくはあるも、あまり驚きはない。初めて出くわした時は叫びそうになって、危うくバレそうになった。
引く手数多でも、なぜか帆高はずっとフリー状態を通してている。彼女いない歴=年齢。いわゆる草食男子で、色恋云々には興味は無いのかもしれない。
『帆高って男が好きなの?』
素朴な疑問によるストレートな問いの直後、両頬を千切れそうなぐらい引っ張られたのは遠い記憶ではない。その無言の全否定は十分伝わり、以来口にもしないし疑ってもいない。
「あ。嫌な女だな、あたし」
帆高が断った瞬間、安心した自分がいた。
彼女がフラれてしまえばいい。そう思っていたつもりではないが、反応からして「こうなる事を期待していたんだろ」と責められれば、言葉に詰まる。
ただ、今回の相手は分からないと思っていた。自分ほどの長さではないが長く伸ばした髪はまっすぐで柔らかそうで、念入りな手入れが窺える。手足は細くて背は低すぎず高すぎず華奢で、横顔は凛としていて快活さもにじみ出ていた。
言うなれば上玉、逃がすには惜しい女の子だ。遠目からでも、断言できる。
だから、もしかしたら…の可能性も頭に入れていた。会話の内容が聞き取れるぐらいに近づくまでに聞こえていた声の感じは、とても砕けていた。親しい間柄であることに間違いは無かったのだ。
「汚い感情。早く帆高離れしなきゃな」
首を傾けて垣間見ると、少女は呆然とした表情で佇んでいた。その姿に、当事者でなくとも胸が痛む。
もうそろそろか。珠結がスカートのポケットに手を突っ込んだ時、少女が口を開いた。
「で、でも、私のこと嫌いじゃないよね? だったらお試しで付き合ってみてくれない? 段々好きになっていく可能性だって、あるかもしれないでしょ?」