あたしが眠りにつく前に
 …ちょっと待って。あたし? どうしてあたしが、話に引き出されてくるの…!?

 自分の存在がバレたのかと思ったが、こちらに気付いたためではないらしい。

 帆高の答えを見通していたかのように、彼女は至って冷静だった。蚊帳の外にいる珠結一人が、内にいる二人の言葉に心を激しく揺さぶられた。

 無心のつもりが、完全なる盗み聞きの上に動揺。耳を塞がなかったのが悔やまれるも自分の名前が出てきた以上、今更会話をシャットアウトするなどできるはずが無かった。

「好きな人はいないって言っておきながら、本当は好きなんじゃないの? 一人の女の子として」

「…あいつ、永峰とはガキの頃からの付き合いで、誰よりも気の置けない存在だ。性別が違う中で、ここまで親しくしているのは珍しいかもしれない。周囲の目にそう映るのも、自然かもしれない。でもそれは、恋愛感情とは別物だ。同性の幼馴染のものと、何ら変わりない。いや、俺の場合は友情だけじゃなく、言わば家族への情に近いものも含まれてるんだろうな」

「嘘、信じられない。ただの幼馴染が普通、毎日一緒に帰ったり、クラスが違ったら必ず物を借り合ったり、クリスマスに他の誘いを蹴って2人きりで出かけたりするもの? 小学生じゃあるまいし、そんなの…」

「個人的・一般的な価値観はともかく、俺達の中ではアリなんだよ。別に信じてもらわなくてもいい。恋人って、もし何かあったら大切なことを放り出してでも駆けつけるべき、最重要なポジションなんだろ? だけど俺には永峰を差し置いて、別の女子の下に走ることは想像つかない。相手が誰であっても、‘彼女’はいらない。…俺、もう十分すぎるほど話したよな。じゃあこれ以上、話すことは無いから」

 一息に言い終えると、帆高は言葉を失っている彼女に背を向ける。いささの苛立ちの表れか、最後の方では語尾と声色に荒さが出ていた。

 まさかこんな形で帆高の気持ちを聞くことになるとは思わなかった。人に話す手前、脚色や誇張があっても、自分と同じ気持ちでいてくれたことに変わりは無いだろう。

 珠結の目から一滴、涙がこぼれる。嬉しい。そのはずなのに、一体どうして。まだ落ち着き切っていないからなのか。

なぜ帆高の言葉に引っかかりを感じているのか。心の片隅にわいた、この複雑な思いは何なのか。
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