あたしが眠りにつく前に
 お互い気まずくなるから、何も見ていないことにしよう。演技の完遂に不安はあるが努めて態度は普段どおりに。珠結は決意を胸に、箱を持ち上げて歩み寄った。

「…まぁ、ちょっとな。珠結こそ…何、その重量感ひしひしのボロ段ボールは」

「うん、これね。抵抗の甲斐も無くっていうか…。はは」

「パシリにされたんだろ。ったく、珠結はいつだって隙だらけなんだよ。倉庫に運ぶんだよな? ほら、貸せ」

「え!? いーよ、いーよ。これくらい自分ででき…、あっ」

 いつもどおりの帆高だ。あんなことがあった後でこれだけ普通にされると、変に戸惑ってしまう。珠結の逡巡を無視して、帆高は箱を取り上げた。

「か、返してっ」

「…よく一人でここまで運べたもんだな。これ以上は、その細腕が折れるだろが。いーから鍵開けろ」

 珠結はなおも取り戻そうと試みるも無言で威圧され、渋々と鍵をドアノブに差し込んだ。

「…ゴホ、ゴホッ。うっわ、ひどいホコリ」

 中に入るなり、薄暗い空中に漂っていた埃に激しく咳込む。足を踏み出せばさらに舞い上がった。何年も掃除がされていないらしく、倉庫内の棚や荷物には埃が高く積もっていた。

 「外出てろ」と平然とした帆高に言われるも、珠結は口を手で押さえて奥に進む。元々は自分に課せられた役目なのだから、そういう訳にはいかない。

「で、置く場所の指定はあるのか」

「んーと、確か右奥の棚の三段目…」

 棚は思っていたよりも高かった。それでも帆高は2~3kgはあった箱を軽々と持ち上げて乗せる。

「今度こういうことあったら言えよ?」

「見返り求めない?」

「内容と頼み方によるな」

 冗談だって。身構える珠結に帆高は軽く笑う。十数分前も同じような顔をしていたのに。何となく、話題をそらすことにする。

「いーいなぁ、力あって。あたしじゃ絶対できなかったよ」

「こんなのは男の特権だって。でも珠結の場合は無さすぎるからな。腕力も持久力も、…運も」

「分かってるよ。今日はたまたま捕まっただけで…」

「そうじゃなくて。…早く出るぞ」

 何が言いたかったのだろう。帆高の真意を掴めずも、珠結は後に続いてドアに向かった。
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