あたしが眠りにつく前に
 珠結は無言で強く頷いてみせる。

『死んでも言わないんじゃなかったの?』

 そんな嘲りなどしようと思う訳がなかった。

「俺は彼女のこと、嫌いじゃなかったんだ」

 うん、分かっているよ。本題が始まる一番最初の時、自然な顔で笑っていたのだから。

「彼女とは委員会が同じで。でも俺はそれ以前から彼女のことを知ってた。誰も見ていなくても、誰にも褒められないとしても、最後までやり遂げようとする姿を見て、すごいなって思った。委員会とかで自分の意見ははっきり言うし、人に気配りができて、いつだって努力を惜しまない。おれ自身競うつもりは無くても、敵わないって認められる人だと、今でも思ってる。だから…かな。そんな彼女だから、言葉の1つ1つが許せなかった。より一層腹が立って、暴走した」

 話すスピードに遅速の変化はあるが、どもることなく帆高は言葉を続ける。

帆高は本当に認めていたのだ、彼女という人間を。

「あそこまで言うことは無かったとは思う。でも、止められなかった。…そして、永峰珠結だけには聞かれたくなかった。‘また’、自分のせいだって勘違いしてほしくなかったから」

「でもあれは…!!」

 直後、魔眼が珠結を射すくめる。口をつぐみ、上げかけた腰を再び下ろした。

「‘あの時’も言った。俺は他人のためを思えるような優しい人間じゃない。自分を犠牲にするなんてとんでもない。いつだって自分の思うとおりに行動する。今回だって珠結のためを思ったからこそで、彼女に噛み付いたんじゃない。自分が気に食わないと思ったから、それだけだった。つまり俺は、自分最優先の自己中人間なんだよ」

 帆高の内情告白にも自虐めいた自己部分析にも、もはや何も言い返せなかった。それは帆高の命令ゆえだけではなかった。

「以上」

 そう短く告げると、帆高は机から下りた。

「そろそろ帰るか」

「……あ、うん。帰ろっ、か」

 立ち上がると、帆高はすでにドアの前で待っていた。

歩み寄りながら、珠結には帆高の顔をまともに見ることができなかった。

 裏庭の件に、自分は直接関係していない。当事者の帆高の話は聞かなかったことになっている。ちらりと見た帆高の顔には何の表情も浮かんでいなかった。それなのに。

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