あたしが眠りにつく前に
「俺が何言っても、意味ない。見苦しい弁解だとしか思われないって」

「やってみなきゃ分かんないよ。帆高も帆高で、何積極的に孤立してるの!? 向こうの思う壷じゃない」

「嘘偽りが混ざっていても、俺が加害者なことに変わりないだろうよ。真偽が確かめられない今、ギャラリーがどっちに味方するかなんて決まってる」

 帆高も彼女も才色兼備で人柄も良い(帆高は表面上)。違うのは後ろめたい事情の有無と性別。女の涙というオプションは残酷なまでに威力を発揮する。

 対象が自分ではなく帆高だとは、早くに分かった。

 極力帆高と目を合わせないようにしていたクラスメート。近寄りがたげにしていた、帆高が普段一緒にいた友人達。廊下で帆高と異様に距離をとり、ジロジロ見ながらヒソヒソ囁く同級生。

 帆高は移動教室はさっさと一人で向かい、昼休みは教室から姿を消していた。周囲も人も見ようとせず、誰にも話しかけない。

 気付かないほうが馬鹿だ。全てを知ったうえ、進んで一人になることで先手を打っているようだった。

 珠結が詳しい内情に気付けなかったのは、友人達が耳に入らないようにと気を配っていたからだった。 自分を思ってのことの行動には頭が下がる。

そしてクラスメートの自分への態度が変だったのは、自分が帆高の幼馴染だからという気まずさによるものだと弁明された。

「ひどい事言って余計に傷つけたんだ。罰だと思っとけばいい。香坂がこうなることを願っていたんなら、良かったんじゃないのか」

「どんな理由でも人が傷つくのを喜ぶような人を、帆高は認めてたの? 違うでしょ」

「とにかく、俺はどうでもいいから。勝手に騒いでればいいんだよ」

 心底うんざりしたように、帆高はそっぽを向いた。

 ああ、まだ引きずっているんだ。親友二人を同時に失った過去を。直に傷付けられる前に、自分から離れていく。それしか自分を守る方法を知らない。

「…そんな顔するなよ」

 自分よりも相手を心配する困惑の顔。そういう顔は自分のためにすべきでしょうに。

「…帆高の捻くれ物。偏屈。臆病者っ」

 何もできない自分が情けなくてたまらない。

「珠結も…離れてくの? あいつらみたいに」
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