あたしが眠りにつく前に
「まずは香坂さんが学校に来てくれないと、何も始まらないんだよね…」

「そこなんだよ。先週の始めから休んでるし、誰とも連絡がつかなくて会おうともしないって、クラスのオトモダチが騒いでた」

「『帆高にぶたれた時の腫れが引かないから』説は信じないでよ」

「あったり前じゃん。一之瀬君は女に暴力振るう人じゃないよ。珠結の目撃情報も100%信じてる。香坂さんとはあんまり話したこと無いけど、なんか繊細そうだったなぁ。きっと引きずってるだろうね。今の学校の状況知ったら、ますます…」

「来ないよね。こんな大事になってりゃ、ね」

 彼女が直接ありのままを話せば、沈静化すると思う。しかしそこに持ち込む方法が思いつかない。いっそ自宅に乗り込んで説得することも考えたが、友人までも拒絶しているぐらいなら不可能だ。

まして彼女が帆高との仲についてを納得していなければ、自分が出しゃばることで一層に事態が悪化しかねない。

「う~、どうしたらいいんだろう」

「…どー見ても、珠結が一番参ってるよね。で、渦中の一之瀬君はケロっとしてて。変なのー」

「今回ほど帆高の神経を疑ったことは無いけど、友達への巻き添えは気にしてるみたい。あたしが悩むのは当然でしょ、幼馴染の一大事なんだから。自分も間接的に関わってることだし、何もできない自分が情けないったらない」

「その自虐、一之瀬君が聞いたらお冠だね」

 何で分かるの? 里紗は珠結の無言の肯定を読み取ったらしい。 

「うそ、本当に言ったの?」

「だって、事実あたしばかり助けられて…」

「ストップ! うわ、予想以上に鈍っ。一之瀬君がかわいそうになってきたぁ…」

 絶対にバカにされている。拗ねれば、哀れむかのように肩に手を優しく置かれた。

「…意味は」

「教えなーい。自分で考えたら? じゃ、そろそろ行くね」

 里紗はトートバッグを肩に掛けて鞄を持つと、余った手の人差し指を立てる。

「天然記念物並みの鈍感ちゃんにヒント。こんな状況下で、一之瀬君が気丈でいられてるのは何故でしょう? その理由になる誰かさんは、何もできないって思ってるみたいだけど、実際はその逆なのです~」

 手を下ろすと、里紗は今までの笑みを引っ込めた。
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