あたしが眠りにつく前に
「塚本君のユニフォーム姿、初めて見た。似合ってるよ、ジャパン・ブルー」

「プラクティスシャツ、ね。どうもお褒めに預かりまして。永峰さんこそ、何してるの?」

 帆高を待っている旨を伝えると、塚本は納得したように頷いた。

「それにしても二人は仲良いよな~。どっから見てもカレカノだし、実は隠れて付き合ってるんじゃないの?」

「付き合い長いからね、別の意味で。そういう塚本君だって、仲良いじゃないの」

「あいつは他の連中と一味違って、面白いヤツだし。知り合ってからの時間は永峰さんには遠く及ばないけど、親友だと思ってるよ。ほら、こういうのって時間とか関係無いじゃん?」

 ニイっと笑うその顔が、急にかすんで見えた。珠結は椅子に座り、防眠効果のある処方薬を飲み込んだ。今日の分を飲み切ってしまったが、家に着く時間までならもつ。少し目を閉じてから開くと、近づいて来ていた塚本の顔がクリアに見えた。

「それ、風邪薬? 大丈夫?」

「うん、でもたいしたことないから平気だよ」

「でも風邪ってこじらせると面倒だよ。ほら、自分で実証済み。だから今日はもう帰った方がいいんじゃない? 一之瀬はただでさえストレス溜まってて辛い時だし、もし伝染ったら余計負担かかるし…さ?」

 ああ、決定的。これまで予想に過ぎなかったのが、確信に変わった瞬間だった。もう限界で、潮時は告げた方がお互いに楽になる。

「…ねえ。あたし、ずっと言いたいことがあったんだけど」

「ん? 何?」

「塚本君さ、あたしのこと嫌いだよね。だからそうやって無理に笑わなくてもいいんだよ」

「……え? やだな、いきなりキツイ冗談やめてくれよ」

 笑みさえ浮かべている珠結に、塚本の声は上ずった。

「惚けても、否定はしないんだね。塚本君、嘘苦手で素直だもんね。あたし達、一度は話し合うべきだと思ってた。あたしは構わないから、本音で話してくれないかな」

 塚本は顔を凍りつかせて沈黙する。

「あたしが気づいてないとでも思ってた? どこかの魔眼使いで慣れてるから、視線には敏感なの。敵意とか嫌悪とか、負の感情付きの類のものは特に。教室やそれ以外の場所でも、あたしのこと遠くからそういう目で見てたよね?」
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