あたしが眠りにつく前に
「…ただの自意識過剰じゃないの?」

 早く認めてくれればいいのに。これ以上嫌な女に思われたくないのだが、致し方ない。

「じゃあ、言わせてもらう。あたし達には帆高という共通の友達がいる。帆高とあたしはクラスが同じで、塚本君はよくこっちに遊びに来る。でも変じゃない? だってこうやって話をするの、‘初めて’なんだもの。普通だったら、帆高を挟んで少しは親しくなっていると思う。理由は分かるよね。塚本君は帆高があたしと一緒にいるときは近寄らないで、逆にあたしが近づこうものならさっさと教室に戻っちゃうからだよ。まぁ…、避けられてるって分かった時からあたしも近づこうと思わなくなったけど」

 根拠はそれだけでなく、彼は目すら合わせようとしなかった。先程も敵対心を臭わせ、口先だけの言葉をぶつけてきた。実際に心配していたのは帆高だけだった。

『好意的に装ったのは、1対1で不可抗力だったから』

 そんな心の声を聞き取れないほど、あたしは鈍感じゃないよ。珠結は里紗に心の中で反論した。

「あれだけ態度に出されてたら、嫌でも分かる。嫌ってるって知ってほしくて、わざとそうしてたんじゃなかったの?」

 露骨な挑発に、塚本の顔が赤く染まって唇が震えだした。

「…そう。俺は永峰さんのこと、嫌いだ」

 その言葉を待っていたが、マゾヒストの趣味は無いから快感は覚えない。分かっていても、実際に聞くと胸が痛む。

「そこまで嫌われるようなこと、したっけ? 小・中とも学校は違うし、高校では最初から避けられてたし。悪いけど、身に覚えが無いよ」

「そっちは何とも思ってないんだろうけど、俺にとっては一大事だったんだ」

 塚本は胸の位置のユニフォームの生地を軽く引っ張ってみせる。

「永峰さんが、一之瀬からサッカーを奪ったからだよ」

 直後、心臓を鷲掴みにされたような衝撃を受けた。それは帆高への大きな負い目であっり、言及されたくないことだった。 

「…そういえば、何度も帆高にサッカー部の入部を勧めてたね。で、断られるたびにあたしを睨んでた」

「一之瀬のプレーを初めて見た時は、電流が走った。味方でも敵でもいつか戦いたくて、雨の日も熱があっても厳しい練習を必死でこなしてきた。…だから再会できた時は嬉しかった、のに。それなのに…!」
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