あたしが眠りにつく前に
告げられなかったものの、歩く方角と経路、ひたすら上る階段で行き先は想像できた。あと1階分の階段を上る頃には頭も体もまともに動くようになっていた。そこに至るまでわりと時間を労して帆高を待たせ、ゼイゼイと息切れが継続中なのは置いておく。
最後の一段を上り終えるとすでに扉は開かれて帆高の姿はなく、冷たい空気が入り込んできていた。一歩踏み出して見上げた空は朝のカラリとした晴天と打って変わり、雨雲に覆われて今にも泣き出しそうだった。
家を出る直前にちらりと見たニュースのお天気おねーさんは、一日晴れって言ってたはずだけれど。まぁ、彼女に罪は無い。実際に天気を予報するのは気象庁であり、彼女らアナウンサーは解説しているのにすぎないのだから。
そういえば広域や一部地域だとかで予報にも違いがあるようだった気がする。どうだっただろう、真剣に頭に入れるつもりがなかったか、よく覚えていない。そもそも情報源は何だったか、ともかく気にするのはそんなことではない。
朝は確かに晴れていたのだし、自分は別に困らない。せいぜい困るのは今日が遠足の小学生や、布団を干してた主婦ぐらいだろう。あとは傘を忘れた学生か社会人…、あら、困る人は大多数か。
『嘘つき!』と責めたくなる気持ちも分からなくは無いが。でも日本の雨はほぼ中性なのだし、少しかゆみやベタつきを感じる程度だ。何もぬれた途端に肌が溶けるような危険なものではない。
命が関わるわけでもなし、元々自然は予想外なことばかり起きるのだから。手っ取り早くコンビニで雨具を買うなり、潔くびしょ濡れになって帰るなりすればいいと思う。
かなりどうでもいいことを考えながら、すでに欠片となっていた珈琲飴を噛み砕いて飲み下す。噛み砕けるサイズになるまで舐め続けるのは苦痛だったが、ティッシュに吐いて捨てるのはできなかった。食べ物を粗末にしてはならないという母の教えもあるが、目を覚ますには不本意ながら必要だったからだ。
ふうと息を吐いて振り返れば、帆高は気配もなく立っていた。距離は空けているものの、扉の真正面の位置。話が終わるまで戻らせないつもりだ。
これは契機なのだ。今ここではっきりとけじめをつけておこう。屋上に着くまでに、珠結はその意志を固めていた。いや、言い聞かせていた。
「何で俺を避ける?」
話の切り出しは彼らしく、単刀直入だった。
「そう? 気のせいじゃない?」
「ふざけるな」
「はい、そうですね」とすんなり引き下がってくれるとは、はなから思っていなかった。言葉を慎重に選んでいく必要がある。いやそもそも果たして話を穏便に且つ、‘終結’すらできるのか。珠結はそこが不安だった。
「俺、何かしたのか? してるんなら、はっきり口に出して責めろ。生憎こっちは心当たりが無くてな」
最後の一段を上り終えるとすでに扉は開かれて帆高の姿はなく、冷たい空気が入り込んできていた。一歩踏み出して見上げた空は朝のカラリとした晴天と打って変わり、雨雲に覆われて今にも泣き出しそうだった。
家を出る直前にちらりと見たニュースのお天気おねーさんは、一日晴れって言ってたはずだけれど。まぁ、彼女に罪は無い。実際に天気を予報するのは気象庁であり、彼女らアナウンサーは解説しているのにすぎないのだから。
そういえば広域や一部地域だとかで予報にも違いがあるようだった気がする。どうだっただろう、真剣に頭に入れるつもりがなかったか、よく覚えていない。そもそも情報源は何だったか、ともかく気にするのはそんなことではない。
朝は確かに晴れていたのだし、自分は別に困らない。せいぜい困るのは今日が遠足の小学生や、布団を干してた主婦ぐらいだろう。あとは傘を忘れた学生か社会人…、あら、困る人は大多数か。
『嘘つき!』と責めたくなる気持ちも分からなくは無いが。でも日本の雨はほぼ中性なのだし、少しかゆみやベタつきを感じる程度だ。何もぬれた途端に肌が溶けるような危険なものではない。
命が関わるわけでもなし、元々自然は予想外なことばかり起きるのだから。手っ取り早くコンビニで雨具を買うなり、潔くびしょ濡れになって帰るなりすればいいと思う。
かなりどうでもいいことを考えながら、すでに欠片となっていた珈琲飴を噛み砕いて飲み下す。噛み砕けるサイズになるまで舐め続けるのは苦痛だったが、ティッシュに吐いて捨てるのはできなかった。食べ物を粗末にしてはならないという母の教えもあるが、目を覚ますには不本意ながら必要だったからだ。
ふうと息を吐いて振り返れば、帆高は気配もなく立っていた。距離は空けているものの、扉の真正面の位置。話が終わるまで戻らせないつもりだ。
これは契機なのだ。今ここではっきりとけじめをつけておこう。屋上に着くまでに、珠結はその意志を固めていた。いや、言い聞かせていた。
「何で俺を避ける?」
話の切り出しは彼らしく、単刀直入だった。
「そう? 気のせいじゃない?」
「ふざけるな」
「はい、そうですね」とすんなり引き下がってくれるとは、はなから思っていなかった。言葉を慎重に選んでいく必要がある。いやそもそも果たして話を穏便に且つ、‘終結’すらできるのか。珠結はそこが不安だった。
「俺、何かしたのか? してるんなら、はっきり口に出して責めろ。生憎こっちは心当たりが無くてな」