あたしが眠りにつく前に
 くだらないことでの諍いは日常茶飯事。帆高が怒ること自体、珍しくはない。しかしそれは、あくまで軽度のもの。珠結以外の他者とは専ら波風すら立てない。

「やっぱりあの日以来だってのは分かってんだよ。原因がそんなくだらないことでもないってことも。なんとなく想像はつく、俺がいない間に塚本と何があった?」

「なっ! 塚本君は関係ないよ。言ったでしょ、塚本君とはただお喋りしてただけだって。変に疑わないでよ」

「なら、聞くけど。いつから‘ただお喋りできる’ような仲になった? 珠結はともかく、塚本は。あいつの頑なさは半端なものじゃない。だから絶対あり得ない。まあ、だとしても、どうやって和解したんだ。元凶の俺には何もさせやしなかったのに?」

 お冠中でも帆高の冷静さとエスパーぶりはいかんなく発揮されている。そんな彼だからこそ常々、自身の幼馴染に対する友人の不満に気づかないはずがなかった。そして幾度か塚本に苦言を呈そうとした帆高を押しとどめてきたのは、他の誰でも無く珠結だった。

憧れの存在である友人が、快く思っていない人間の肩を持つ。それはどれだけ彼の心を傷つけるか。彼らの友情間に溝を生じさせるか。想像できるだけあって、珠結には許せるわけが無かった。

 自分は気にしないからと、笑って引き止めた。自分のせいで大切な友人を失ってはいけない。あんな辛い思いを帆高に味わって欲しくない、もう二度と。

「たまたま二人きりで居合わせて、お喋りできたからの和解だよ。そしたら思いのほか簡単にわだかまりが解けた。もう心配してもらう必要もないから、安心して」

「俺はサッカー部に戻るつもりは無いのに?」

「知ってるよ、言われなくても」

 彼だって、呆れるほどに頑なで。でも彼は知らない。

「なら、どうして!」

 彼が意志を貫いたままでも、丸く収まる術がある。

「関係ないよ」

 それは、

「……には」

 とても単純で。

「一之瀬君には、関係ない。もう、あたしに構わないで」

 全ての元凶が消えるということ。
< 94 / 284 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop