fall in labo〜恋する研究室〜
「川崎さん、ここってどうすればいいんですか?」

「この操作は温度を上げちゃいけないから、冷やしながら――」


歓迎会以来、ミナミさんはカワサキにくっついてまわるようになった。

席が隣なのをいいことに、つきっきりで教えてもらっている。

そして、たまに私に送られてくる勝ち誇ったような視線。

あんたの出る幕はない、と言われているようで、カワサキに話しかけるかけることさえできない。


「ミナミさん、何なんだろうな?」


ダイキくんがポツリと呟く。

隣で作業している私にしか聞こえないくらい、小さな声で。


「……うん。」

「何?若菜ちゃん、ヘコんでる?」


そりゃ、ヘコむよ。

私は、あんなふうにストレートに感情表現できないもん。


「俺は、ガンガンこられるのは好きじゃないけどな。」

「よく言うよ。浩実と付き合っといて。」


浩実ほどガンガンいく子はあんまりいないと思うけど?


「それもそうだな。」


ダイキくんは照れたように笑うが、彼自身も十分、素直だと思った。

私は……、全然素直じゃない。

好きな人にも、自分自身にも。


「でもさ、若菜ちゃんは今のまんまでいいと思うよ。」

「ダメだよ、こんなにひねくれてたら。」


自分で言って、さらにテンションが下がる。


「無理に変えちゃったら、若菜ちゃんじゃなくなるよ?」

「……どうすればいいかな?」

「考えすぎちゃダメだよ。好きなら好き、それだけでいいじゃん。」
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