fall in labo〜恋する研究室〜
私はどんどんカワサキから遅れはじめ、ついに足を止めてしまった。

数歩先に進んでやっと、カワサキは私がついてきてないことに気づいて振り返る。


「どうかした?」

「……何でもないです。」


自分でもビックリするような低い声だった。

カワサキが私に近づいてくる。


「何でもないことはないよね?もしかして、久しぶりに不機嫌とか?」


そうやって、私をからかうのだって後輩だからでしょ?

何とも思ってないから、そんなことが言えるんでしょ?

私は不機嫌なんかじゃないのに。

カワサキのことが好き過ぎて、どうしたらいいかわからないだけなのに。


「不機嫌じゃないです。」

「じゃあ、何だよ?」


いたずらっぽく笑って、人差指で私のおでこをチョンと押す。

そんな優しさに一喜一憂している私に、カワサキは気づいているだろうか?


「おーい、どうした?」


あまりに反応しない私をカワサキは不審な目で見ている。

そんな目で見たって、私の心はどうせ見えない。


『少しぐらい勇気出しなさいよ!』


ふと浩実の言葉を思い出した。
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