【奏】たらればの時間
「行き場のねぇ気持ちを抱えて苦しむのも
無理ねぇってわかってたけど
それでいい訳ねぇし
あまりに投げやりだから一度
殴りあいになった事あんだよ」
タクとヨウイチが
殴りあったなんて想像できない…
驚く私を見て、子供みたいに笑ってる
「だから、想いを捨てる必要はねぇ
いつか自然と思い出になるまで
そのままでいればいいじゃねぇか」
そうヨウイチが言ってから
タクは少しずつ落ち着いたらしい
「……今は?」
ようやく出た言葉にハッとなった
こんな事、私が聞いちゃダメなのに…
「今は…思い出になってんじゃねぇかな」
その言葉を聞いて、安心したけど
少し寂しくもなった
「で、ミサキはそんな事なんで聞くんだ?」
「…えっ?…ぅん…」
説明出来ない
説明しても信じてもらえないに決まってる
「もしかして…カズさんと上手くいってないのか?」
「ん~…」
「また悪い癖が出てるって…とこか」
「あはっ」
笑って誤魔化したけど
ヨウイチには見破られてる
「カズさんも相変わらずだな」
そう言いながらも、煙草に火をつけた
銘柄も変わらないんだね…
ボーっと煙を見つめてたら
静かな落ち着いた声が聞こえてきた
「…1つだけ言っておく」
向いた先にはいつになく真剣なヨウイチで、姿勢を正して頷いた
「カズさんと上手く行ってないからって
タクに戻りたいとか
タクを頼ろうとかって思ってねぇよな?」
「そっ…そんな事できる訳ないじゃん」
「悪ぃ…そうだな
ミサキはそういう事できるタイプじゃねぇもんな」
ヨウイチはため息をつきながら煙草を消した