一生で一度だけの恋
女の子は、急に鳴ったシャッター音に驚き、夕稀のほうに振り返りながら、大きな声で叫んだ。


カシャッ!


再びシャッター音が屋上で静かに鳴り響く。


「あっ!」


女の子は、また思わず声を出してしまった。
夕稀は、またシャッターのボタンを押してしまっていたのだ。

本当に無意識なのかもしれない…夕稀にとってカメラで納めておきたかったシーンだったのだろう。


女の子に睨まれながら、夕稀は、その場で立ちすくんでいた。
何とも言えない状況に夕稀は、ゆっくりと口を開いた。


「あ、あの…、ごめんなさい…。思わずシャッターを押したくなって…。」


「えっ…思わず?」


「あまりにも綺麗だったから…つい…。」


「ええっ!」


女の子は、驚きながら顔を赤らめて棒立ちになっていた。
そして、少し震え上がると女の子は、絵を描いていたスケッチブックを素早く閉じて、スタスタと夕稀の横を通り過ぎていった。


「ちょ、ちょっと…。」


夕稀を無視するかのように女の子は、屋上から出ていってしまった。

夕稀は、女の子が立っていた場所に歩み寄り周りを見渡しだした。


(あの女の子は、なにを見て絵を描いていたのだろう…。)


ぼーっと、虚ろな顔をした夕稀は、その場から離れなかった。

夕日が沈みきるまで、女の子が立っていた場所から…。
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