恋の唄
「おー、これだ。やっぱりあの自販機にあったろ」
「あったけど自分で行けよな」
二人のやり取りをただ黙って聞いていると、華原君が説明してくれた。
どうやら真柴君は最初、サイダーが飲みたいって言って買ったらしい。
だけど急に「やっぱりいつも飲むコーヒーがいい」と言い出して、おごるからとお金を渡され、仕方なく華原君が買いに出掛けた。
つまり、私の手にあるサイダーは真柴君の心変わりがきっかけで私の元に来たらしい。
おごりなのは間違いないけど、何だか少しだけ複雑な気分にもなって、私は苦笑いしてしまう。
ふと、真柴君が腕の時計を見た。
「そろそろ始まるな。俺は先に行ってる」
華原君にそう話すと、返事も待たずに真柴君はコートのある方に歩き去ってしまう。
「華原君、いいの?」
「別に焦らねぇから。それより、結衣は何でココにいんだよ」
またさっきの質問をされて、私はどう返そうかと困ってしまう。