ノン・レス
しばらく、その場から動けずにいた。
携帯が
強く握られることもなく
滑り落ちることもなく
中途半端に右手に握られていた
亡くなったって…
え…?
だって私たち、まだ20代で、
あなたはやっと研修医になって…
これからまだまだ
お医者さんになる勉強をして、
だってこのあいだ、披露宴ですぐ横に
いたのに…。
――ピンポーーン…
どこか遠くで、音がする。
あれ、うちのチャイムだ。
頭が理解しても
体は動かない。
――ピンポーン、ピンポーン
「イズミ、いるんだろ?大丈夫か!」
あれは…
声を聞いて、弾かれたように
ドアに、走る。
「や、山口く…」
言い終わる前に
山口君の力強い腕が
私のまわりにあった