鵯と桔梗 ‐戦国サイダー番外編‐
風は吹けど、秋は来ず
山の端(は)まで茜色に染まり、風は冷たく吹き下ろす。

庭をてんてんと舞う鵯に餌を撒く柚木崎 継虎(ゆきざき つぐとら)の髪が揺れた。


まざまざと感じる秋の色、それは肌にも心にも染み渡る。

既に水を与えられた桔梗は、その顔に雫をたっぷりと乗せていた。



籠の中の餌がなくなり、それに気付いた鵯もやがて一羽二羽と空へと旅立つ。

近くの枝に、遠くの空に、思い思いに飛び回る自由を見て、継虎の口元が微かに笑う。



あれから日が随分と経ってしまった、そうは思うものの時は止まらない。


それでもまだこの手に残るぬくもりと、耳を誘うあの声と、瞼の裏に焼きついた姿が、いつも心を握っていた。



「ここにいたか」

空で踊る鵯を眺め過ぎたか、その声が聞こえるまで人が来る気配に継虎は全く気付かなかった。

ゆっくりと振り返れば屋敷の中に兄、夢継(ゆめつぐ)が立っている。


「兄上、来るならば……」

「突然弟の顔を見たくなる時もあるさ。土産も持って来た、隣に来い」


悠然とした佇まいに、その色の白い手がゆっくりと継虎を呼ぶ。

柔らかに微笑む兄を見て、継虎も素直に応じて戻ろうとした。

 
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