鵯と桔梗 ‐戦国サイダー番外編‐
言いかけた言葉は溜め息に代わり、澄んだ空に溶けていった。

それを見てまた笑う兄の顔が、朝日に照らされる。


屋敷へ上がろうと履物を脱いだところで、別の者が円座を持って来た。

庭を向いて座ると、先程の鵯に加え雀が数羽、枝で遊んでいるのが見えた。



「遠い目をするようになったな」


囀る小鳥を眺める継虎に、兄がぽつり零す。

首を動かせば兄も樹の上の小鳥を見ているようだった。


「すずが気にかけておったぞ。最近お前の様子が変だと」

ゆっくりと話すその姿をまた横目に、継虎は庭先へと顔を向ける。

「何かあったか」


窘めるわけでも怒るわけでも、ましてや愉しむ様子もない淡々とした兄の問いに、ふと夏が蘇る。


何もかも知らない国、そこで手にしたものはかけがえのない大きなぬくもり。


「言えぬなら、恋煩いかもしれぬな」

今度はくくくと喉を鳴らした兄に、どう言うべきかとも迷う。

「いや……煩ってなど」

ただあながち間違いでもなく、真実でもない。


「その様なこと……必要ないと」


あれを恋と言うには幼過ぎる。


あれを思い出と言うには近過ぎる。

 
< 3 / 6 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop