魔王と救世主の恋に
草花一つ育たない、冷たくて澄んだ水と空気に包まれた最も暗い場所、世界の底。
そこに僕たち闇が在る。
誰も僕たちに気付かず、例え見つかったとしても、彼らの踏む地面からかけ離れた奥深くに潜んで生きる僕たちを地上の人々は同種などと思わないのだろう。
この闇は、
僕を凍てつくように孤独へと連れ込むから、光の熱を忘れた冷ややかな体は近しい誰かの体温を酷く求める。
だから、僕は彼女を愛しているのかもしれない。
無邪気な愛情や優しさにつけ込んで、深く深くもっと深く澄み切った地の底で、彼女と二人で生きていけたなら。
「君が僕だけを選んでくれたなら、よかったのに」
そうすれば、
こんなに苦しくて痛い思いなどしなくて済んだ。
恐いんだ、ずっと。
僕は、いつか君を殺してしまうかもしれない。
望む様に愛してくれなかった大切な人を葬ってしまうのは誰でもない、僕なのだと、怯えては恐がっている。
「それは無理だよー。私に何の力がなくても、私に救いを求める人達を見捨てるなんてできないもの」
だけど、
それすら彼女は赦してはくれないから。
僕は、このまま独りで沈み続けるしかない。
もっと深く、いつか酸素のない底まで。
それでも
まだ諦められずに、無くした温もりを求めながら溺れてゆくんだ。
「僕は君を愛してる」
どんな悲劇が待っていたとして、できれば僕は君の騎士にでもなってあげればよかったのだけど。
生憎、僕は敵だからね。