6cm
☆☆
『真愛さんが入室しました』


チャットルームが見慣れた返事をして来る。


と同時に、


『サトシさんが入室したのでこの部屋をロックします』

と表示される。


同時に入ったのかな。
まぁ、すぐ出ていくだろう…。

そう思いながらリロードすると、
その『サトシ』はやはりすぐ退室していた。

…だけど、
間髪入れずに入室し直してきた。



…?

ちゃんと待機メッセージ見てんのかな…。


馬鹿な男は大抵、
二言目には

『電話で話そうよ』
『エッチな話しようよ』

って言ってくるから、
速攻で追い出すんだけど…。

こいつは違ってた。


こんばんは!

と挨拶して来た『サトシ』は、
いきなり、

『俺あんまりチャットしないんだ』

と言ってきて。


…はぁ?
何か、素直な人ですね…。

『だから返事遅かったらごめんね』

『大丈夫だよ~、気にしないよ』


速攻でレスを打つ。



そいつは『サトシ』、29歳。

都内に住んでいて、
かなり久々にこのチャットを見に来て、
待機しようと思った矢先、
あたしを見付けて入ってきたらしい。


『真愛って何て読むの?』

『まな、だよ』

『本名?』

『まさか(笑)ハンネだよ』

『そっか。いい名前だね』


なんて、
何の下心も感じない話。

あたしは一瞬で、そいつに心を許しそうになる。



全然深入りしてこない。

連絡先も聞こうとしないし、
名前も仕事の事も、

『言いたくないなら言わなくていいから』

って聞いてくる。


…何だ?
こいついいやつじゃん?

やっと自分が求めてた相手が来た。

って、思った。


むやみに会いたいとか言わないし、
あたしと同じで、
今のこの会話を楽しんでる気がする。


前から知ってる人みたいな、
何かほっとする空気。

本当に下らない話ばかりして、
あたしは小さな画面を見ながら、
吹き出したりしつつレスを返した。


まるで会って話しているような、感覚。

あたしはただ、
『サトシ』との会話にのめり込んでいく…。
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