キミの日記『Cherry's Diary』
バスは
ひとり用の座席が
いくつか空いていた。
運転席の近くにふたつと、
後部座席にふたつ。
「あっ!ここにしよう!」
運転席近くの椅子に
座ろうとすると、
隣にいた桃乃木は
まだ立ったままでいた。
「ね、桃乃木、
アンタ突っ立ってないで
座らないの?
そこ、空いてるよ?」
そう言い、近くの席を指さすと、
「ほら、この辺って
お年よりも利用するでしょ?
先週もそうだったし。
来たときに席どうぞ!
って譲るの恥ずかしいから
俺、ここで立ってるわ。」
そう言い終えると、
桃乃木は吊革につかまった。
「ふ~ん?えらいね。」
別に偉いって思ったわけでもない。
ただ、他に言葉が見当たらないだけ。
「じゃ、私は座って寝るから、
着いたら起こしてね~お休み!」
「お、おい!」
バスは発車してすぐ、
近くの十字路で止まった。
窓を眺めているとふと、
バス停付近にある桜公園が目に入った。
小学校まで、よく二人で遊んだ公園。
今は満開の時期が過ぎ、
ところどころに
こげ茶色になった桜があり
よく目立つ。
「先週末の雨が降ってたな。」
桃乃木が窓を覗き込みながら
話しかけた。
「うん。」
そう思う。
こんな時
無言になるのはなぜだろう。
朝、お母さんに怒られたのことも
バスを追いかけて走ったのも
鞄が重いことも全て他人事になってしまう。
いや、鞄が重いのは無理か。