ウェディング・ストーリー
彼と一緒に公園でバスケをするそんな日が、その年の冬間近まで続いた。
ずっと続けばいいなと、思っていたけれど、彼も来年は受験生。そして、私も…。
話したいことがあると彼に告げたのは、いつもの練習が終わった後のこと。
今日でここに来るのは最後だと、伝えた。
「...えっ...なんで?」
率直に、彼は疑問で一杯だったようだ。
困惑する様子が目に見えた。
私はこの1年、ずっと考えていたことを話した。
やりたいことが見つかって、会社を辞めること。春には新しい目標のために、この土地を離れることを。
短い間だったけど、姉弟みたいに過ごせてとても楽しかった、ありがとう。そう彼に告げた時、
私は彼に、突然抱き締められた。
その腕の力はとても強く、しがみつく様に。
「ど、したの?」
動揺してしまい、それ以外何を言えばいいのかわからなかった。
それでも彼は黙ったまま。
一息吐いたと思った瞬間、低い声でゆっくり絞り出す様に、彼は話し出した。
「俺、今、こんなこと、言う資格なんてないって、分かってる...。でもっ!...ミキさんのこと、ずっと...諦めたくないっ。」
彼の声は震えていて、それでいて、強い思いで溢れていた。
そんな風に思ってくれていたこと、全く気づかなかった。
私が、彼に伝えられたのは、「ありがとう」の一言だけ。
互いの連絡先も知らない、家も職場も学校もみな知らない。
それでも、本音で話せる唯一無二の存在だった。
彼とはそれっきり、何年も会うことは無かった。