彼は魔法使い【短】
チョキチョキとリズムよくハサミが動きまわる。
「今度は先輩だったの。」
「サッカーが上手で、笑顔が素敵だったから告白したの。」
『…そうですか。』
鏡に移る浅野さんはあたしの髪をサラサラと弄りながら相槌をうつ。
「オッケーしてくれたのに……うざ、うざいって、言われ…。」
思いだすと悲しくなってきて思わず涙が浮かぶ。
溜まった涙が零れ落ちる瞬間、チョキンと一際大きな音がした。
何事かと鏡を見ればハサミを下ろした浅野さんが鏡越しにあたしを見つめていた。
「…浅野さん?」
顔を歪ませた浅野さん。
そんな表情を見たのは初めてで、少し怖くなった。
小さく問いかければ、
『俺にしろよ。』