彼は魔法使い【短】




自分の耳を疑った。


…浅野さん?



そんな言葉使いしているところは見たことがない。


だけど、その低く甘い声は正真正銘彼のものだった。



言葉の意味なんて理解できなくて、何がなんだかついていけないあたし。



浅野さんはそのまま少し屈んであたしの顔の位置に自分の顔をもってくる。


鏡越しに見つめあう。




すると、一握り髪を持ち上げられ、落とされる。




『…貴方をどんなに可愛くしても、貴方は僕を見てくれません。』


『…俺なら泣かしたりしないのに、な。』



フッ、と自傷ぎみに乾いた笑いを浮かべた浅野さんはあたしの溜まっていた涙を指先で掬う。


そんな浅野さんにあたしの胸がキュンと傷んだ。






「…あ、あたし……。」



予想外の状況に小さく俯けば、温もりが離れていく感覚。


………?



『…困らせるつもりではないんです。…忘れてください。』



小さく呟かれた言葉。



「え…!」



反射的に顔を上げる。



上げたと同時に視界に移る鏡の中の自分は、数時間前より数段可愛くなっていた。





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