彼は魔法使い【短】
…そうだ。
あたしは、…いつも浅野さんの魔法みたいな優しい手に支えられていた。
あたしを宥めて、可愛くしてくれる、暖かい魔法の手。
あたしに魔法をかけてお姫様に変えてくれる浅野さん。
「…っ、浅野さんっ!」
叫び、その後ろ姿を追う。
そのまま大きな背中に抱きついた。
「…浅野さん、あたしに魔法をかけてくれますか…?」
ギュッと力一杯抱きついたまま尋ねる。
だけど、返事が返ってくる気配はない。
「…あたし、浅野さんが魔法をかけてくれるなら惚れ癖治る気がするんです。」
そこまで言えば、浅野さんはゆっくりとこちらを向いてくれた。
『…魔法?…どうすればいい?』
何を言っているんだ、と戸惑ったような顔をする浅野さん。
そんな浅野さんとは対称にあたしはとびっきりの笑顔を向けた。
「……キスしてください。」
そして、浅野さんの影が近づいてくるのと同時に
『…好きだよ、奈未。』
って、甘い声がした。