君はここにいた。
2.ビニール傘
隅のベンチにずぶ濡れ姿の誰かが座っていた。
さっきの物音は、その誰かが持っていた黒い手さげ鞄が地面に落ちた音だった。
落ちた勢いで鞄の中に入っていた財布やら何かのノートやらが、泥濘んだグランドの上に散乱してしまっている。
しかし、その誰かは気にも留めてない様子。いや、気づいていないのかもしれない。
その誰か――。
ずぶ濡れ姿であるのに何故か美しい。周りの景色がより一層輝いて見える。
なんて、それは言いすぎかもしれないが。しかし、そう言っても全然許されてしまうほど。
引き寄せられるかのように近づいていくと、その誰かは僕に気づきゆっくりと顔を上げた。