君はここにいた。

「……何?」


 低く囁くような響き。何一つ無駄の無い声色。
 声までもが美しい。

 それにしても、どうやら目の前の誰かは「男」のようだ。


「いや、傘無いんだったら…これ、使ってよ」

「俺に貸したら、アンタの傘が無くなるだろ」

「僕はべつに。家、走ればすぐだから…」



 嘘だけど。



「何で?」

 彼は僕の傘を受け取り、しばらくたってから鋭い瞳で僕を睨み上げてきた。その迫力に、僕は思わず一歩引いてしまった。


「何でそんなことすんの? 俺とアンタ、赤の他人じゃん」

「そうだけど。なんか……ほっとけない、っていうか…」



 最初に僕を見上げた彼の瞳が、「助けて」と言っているような気がしたんだ。



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