君はここにいた。

 はぁ。
 少したって彼が小さく息を吐いた。


「盗まれる方が悪いんだ。盗まれたくないほど大事なものなら、肌身離さず持っとけっての」


 たしかに。
 僕は、不覚にも一瞬納得してしまった。

 だが、すぐにかぶりを振って見せる。


「だからって、盗みはよくないよ!」


 泥棒と同じじゃないか。


「べつに商品じゃねぇんだし。ただの忘れ物だろ」

「そうだけど。それでもこれは人の物だ。人の物を盗むのはよくない。常識だろ」


 僕なりの精一杯の強気の声を出してみる。
 しかし、彼は全く怯むことはなかった。


「人の物…ねぇ。忘れたってことは、そこまで大事なモノじゃなかったんだろ。でなきゃ、忘れたりしねーよ」

「だけど…」

「…しつこいな」


 今度は彼が僕を睨みつけてくる。やっぱり迫力が違う。全身に鳥肌が立つのがわかった。

< 22 / 204 >

この作品をシェア

pagetop