君はここにいた。
「…これでいいだろ」
彼が何かを書いた紙を、僕の目の前でヒラヒラと振ってみせる。
『少しの間 お借りします』
小さめのキレイに整った字で、そう書かれていた。
ふっ。
僕は思わず吹き出してしまった。
「無茶苦茶だよ」
「でも、問題はないだろ。―― ほら」
彼が先ほど僕から受け取ったビニール傘を差し出す。
「…気持ちは嬉しかったけど、俺が濡れない代わりに、アンタが濡れるってのは気分が悪い」
「え?」
僕はまた驚いて彼を見上げた。
「でも、これで、二人とも濡れない」
誰のかもわからないビニール傘を開き、彼は嬉しそうに白い歯を見せた。
それにつられて、僕もついつい笑ってしまった。