君はここにいた。
「ところで――、アンタさ、いいの?」
突然、彼が笑うのやめて僕を覗き込んできた。
「え? 何が?」
「その袋。アイスだろ? 溶けてんじゃねぇの」
「あ!」
そういえば、そうだった。
僕は母さんに頼まれて(頼まれた覚えはないが)、アイスを買いに来ていたんだ。
「か、帰らなきゃ」
慌てて僕は走り出した。
その僕を彼がすぐさま止める。
「ちょ…待てよ!」
「…何?」
「何、じゃねーだろ。別れの挨拶もなしかよ」
彼が不服そうな表情を見せた。
あ、そうか。
すっかり忘れていた。
「ばいばい!」
「出来んじゃん。―― じゃぁな」
僕は大きく手を振って、すぐに駆け出した。
家に着くと、案の定、母さんに「遅い!」と苦情をくらった。
他にも何かグチグチ言っていたが、僕の耳には届いていなかった。
僕の頭の中は、さっき出逢った彼のことでいっぱいだった。
あまり他人に興味のない僕だが、今はなんか不思議な気持ちだ。
彼は一体誰なんだろう。
名前くらい聞いとけば良かった。