桃太郎【Gulen】
「それでも、人が余っているといったら、あの狂人の屋敷しかあるまい。」
「・・・・・・・・・・・・・。まさか、お前・・・輝夜姫の屋敷に兵を求める気か?」
ほぉ、冴えているじゃないか。
イヌ吉の分際で。
「この季節に、人が余っているといったら、あそこぐらいだろう?」
女帝・・・輝夜(かぐや)姫
数多くの男を奴隷同然のように扱う、絶世の悪女。
五人の花婿を手玉にとっていいように扱った話は、もはやこの周辺の国々で知らない者はいないのではないだろうか?
「や・・・やめておけ!あいつは、女じゃない。蛇だ!喰われるぞ!」
目をぎらぎらさせて首を大きく横に振る金時。
蛇ならいいだろうが・・・。
「あった事もないくせに、噂だけだろうが・・・」
「俺の耳にも届くほどの噂だというコトを理解しろ、桃太郎!あいつはそれだけの悪女なんだよ!屋敷の男共を人として扱わず、ただの下僕としてしか見ていない。しかも不老不死でその秘密は男の若い生き血をすすっているからだという話がだな・・・。」
「俺は会ったことがあるが、それほどでもなかったぞ。」
「・・・・・え?」
金時は、初めて聞いた新事実に頭がついてこなかったようで、その言葉を聞いた瞬間、目を丸くして固まる。
ちなみに、輝夜姫が不老不死なのは、若い男の生き血ではなく、長寿の秘薬の効果だ。
不老不死の薬だといわれているが、彼女にかしずく男の大半はその秘薬が目当てではないのだろうか。
その気持ちだけは理解できんな。
俺は、女に頭を垂れるぐらいならば、その場で腹を切る。
「といっても、昔の話だがな・・・あまっている男ぐらいなら貸してくれるだろう。」
ケラケラと笑いながらも、金時の不安な顔だけはいつまでもぬぐわれることがなかった。