桃太郎【Gulen】
「その剣を見れば、誰でも分かる。何用で参った?」
老人の視線は、あくまで海を向いたままだ。
見たら、かごに魚が入っている様子もない。
しけているわけではない。
おそらく、釣り糸の先に針をつけていないのだ。
どのような理由があるのか・・・一介の凡人にすぎぬ、王子にそれを考えろというのは無理な話。
「ハッ。このたびは浦島太郎様にお知恵を借りたく、この地まで参った所存です。」
この老人は敬意を称するに値する男。
顔をあげてはならぬ。
言葉を選ばなければならぬ。
失礼をしてはならぬ。
「ワシが知ることなど、些細なことよ。おぬしが知りたいことなど、ワシが知ろうことなどなかろう。」
そういうが・・・。
「出雲の国に鬼が出たという噂・・・何か、知ることがあれば、この愚王にお聞かせ願いませんでしょうか?」
「・・・・・・・・・・あの馬鹿が・・・。」
その言葉を聞いた瞬間、浦島太郎に初めて表情がともった気がした。
それが表すものは『悔しさ』『後悔』そして『侮蔑』・・・。