桃太郎【Gulen】
「・・・・・・いいだろう。顔をあげろ。足も崩せ。」
「はい。」
言われて、タケルは浦島太郎の横に胡坐をかく。
家に招待するつもりはなさそうだ。
老人にしてみれば、あの家ではなく、この岬こそが自らの家なのだろう。
だから、話をするならば、この場所でなければならないのだ。
悟空と金太郎は、タケルの後ろで直立不動の姿勢で立つ。
しかし輝夜姫のときとは違い、殺気立つ様子は見せない。
当たり前だ。
仙人相手に勝てるなどと毛頭考えるわけないのだ。
「心して聞け。ワシは同じ話を二度するほど、悠長な性格をしておらんでな。」
「はい。ありがたく思います。」
桃太郎は、深々と一礼をした。
そして、浦島太郎の昔話が始まる。
「かつて、二人の男が漁を営んで暮らしておった。」
老人の目線は、あくまで海を向いたまま。
しかし、その矛先に海が映っている様子はない。
300年という年月。
とうてい、自分では予測もつかないほどの年月だろう。
老人は、いったい何を見ているのだろうか・・・。