桃太郎【Gulen】


「父が、なぜ私に鬼退治などを命じたのか、ようやく分かったような気がします。ありがとうございます。」


 なぜ、父は兵を貸すのを拒んだのか?


 なぜ、そこまで拒みながらも、神剣を自分に託したのか。


 ようやく、理解した。


 父は、鬼の正体を聞いたのだ。


 かつての恩師が鬼に成り下がったというコトを・・・。


「のぉ、スサノオウの倅よ。」


「はい。」


「釣りはな・・・ただ、待っているだけでは、ダメなのじゃ。」


 ・・・は?


「はぁ。」


「しかしのぉ・・・時には、ただ待つことも重要なのじゃよ。」


 言うと、老人は一気に竿を引き上げる。


 そこに引っかかっていたのは、一匹のアジ。


 竿をまったく動かさず、じっと待つことで、つれた獲物。


「老人一人の腹には、コレで十分じゃ。」


 にっこり笑うと、浦島仙人は、アジをかごの中に入れる。


 そして、初めて桃太郎、金太郎、悟空のほうに顔を向けて、その真剣なまなざしをぶつけてきた。


「スサノオウも、ワシの孫も結論を急ぎすぎたのじゃ・・・焦りすぎたのじゃよ。」


 ・・・孫。


 もしや、仙人様。ヤマタノオロチというのは・・・。


「雨とていつかは、やむ。飢饉など毎年起こることではない。流行り病とて、いつかは、治まる。何もせずとも、何をなさずともな。」


 浦島仙人様。


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