桃太郎【Gulen】


「・・・いい目をしている。さて、お主たちには船が必要となるな。」


 仙人はあごひげをしゃくる。


 確かに、ここからは船だ。


 船を渡って出雲の国へと赴かねばならない。


 漁師を当たってみるつもりではいたが・・・。


「良い船頭を紹介してやろう。お~い、乙姫!乙姫!」


 仙人は海に向かって大声を上げる。


 老人とは思えぬ怒声。


 乙姫・・・姫??


 船頭と言わなかったか?今。


「そのような大声を出さずとも、聞こえております。浦島様。」


 その姿は、海の中から現れた。


 乙姫と呼ばれたその女性は、乙女らしい大きな瞳にきめ細かな肌をしており、ぷっくりをした、小さな鼻と、真っ赤な唇。そして、何よりもきめ細かな、白い肌が良く似合う、美しい女性だった。


 鶴のような女性・・・おかしなたとえかもしれないが、まさにその表現が良く似合う女だ。


「・・・・・・・・・美しい。」


「・・・・・・・・・。」


 悟空が思わず、そんな言葉はいてしまった横で、金太郎は言葉もなしに、その女性を前に固まっている。


「こちらに来なさい。お前の船に乗せて欲しい客人が来ておる。」


「かしこまりました。」


 言うと、乙姫はまとめていた漆黒の髪をほぐし、パサリと一振り。


 水に滴った美しい腰まで伸びた髪の毛が、真っ白い着物にパサリとべとつく。


「オットト・・・。」


 その色気に惑わされ、金太郎の鼻から一筋赤い何かがこぼれる。


 色気、金目、欲目。


 男が惑わされてはならぬ、三つの要素であろう。


 ・・・修行の足りんやつめ。


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