かえりみち

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ソファに横になっているのに、疲れすぎて寝つけない。

雨がまた、強く降り出している。
卓也は、窓ガラスに雨粒が打ちつけられては消えていく無数の模様を、飽きもせずに見ていた。
その窓からわずかに差し込む光に、家具の輪郭がかろうじて浮かび上がっている。
暗いと思っていた外の闇も、この室内の暗さに比べればまだ明るかったことに気づく。
その暗さが、この上なく心地よい。

なんでかな。
別に、この家が好きなわけじゃない。
暗いし。
汚いし。
広すぎる。
誰もいないはずの部屋から、物音が聞こえてきたりする。
子供のころは、廊下にある、ご先祖様みたいな人の油絵が怖すぎて、昼間でも一人でトイレに行けなかった。

別に、あの人が好きなわけでもない。
気難しくていつも憂鬱そう。
暴力的で自分勝手。
ひよどりの園で言われたとおり、あれはかなりの悪人だ。
この家に向けられる、周囲の人々の目を見ればなんとなく分かる。
ママに対する暴力だけじゃなく、この家の財産争いでも、かなりうさん臭いことをしてきたらしい。
「庭に生えてる、あの赤い花。その下に、この家に住んでた奴らをみんな生き埋めにしたのさ」
多分、僕を怖がらせて帰すためについた嘘だろうけど、あの人なら本当にやってそうで怖い。
いろんな意味で、あの人はパパとは正反対の人だ。

そう、僕は、この家も、あの人も嫌いなのだ。

それなのに・・・
この家にいると、すごく楽になる。
この人のそばでは、素の自分でいられる。
憎まれ口も平気でたたける。
作り笑顔だって、作る必要もない。


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