かえりみち
百合は助手席の窓に吹き付ける雨を眺めている。
運転席の幸一は、車が走り出してからずっと、黙ったまま。
でも、不思議と気まずい沈黙ではない。
激しい雨音のBGMのせいか、それとも幸一の醸し出す暖かな人柄のせいか。
ちらり、と幸一の横顔を見た。
メガネの奥の瞳が、心なしか充血しているようにみえる。
昨日、一睡もできなかったんだろうな。
何があったのかは・・・なんとなく予想がついた。
タクが島田さんちに行くって決まったときから、少し心配してたこと。
タクはきっと、昔固く閉じたはずのパンドラの箱を開けてしまったのだ。
ふと、昨日のタクの瞳をまた思い出した。
私を責めるような目。
そう。あの瞳は・・・
それと同じ瞳を、以前にどこで見たのか思い出した。
それと同時に、百合は卓也の本当の気持ちに気づいた。
「昨日のタクは・・・」
怒っていたのじゃない。
私を責めてたわけでもない。
「こないだ拾った捨てネコと、同じ目をしてました・・・」
怒りという感情は、
深い深い悲しみと絶望とで出来ている。
タクは悲しかったんだ。
死ぬほど辛かったんだ。
だから、あんな目で私を睨んだんだ。
「わたし・・・」
百合の両目から、わっと涙がこぼれた。
「引っかかれても、噛み付かれても、タクを引き止めとくんだった。本当に大切な人なら、わたし、何されても、離すんじゃなかった・・・」
「百合ちゃん、君は悪くないよ」
幸一が泣きじゃくる百合を見た。