かえりみち
手術室に向かう、うす暗い廊下。
その一歩、一歩が足に重しがついているように重くて、一歩歩くたびに立ち止まりそうになってしまう。
悪夢の中にいるような気がしていた。
春樹の言葉と顔が、まだ頭の中でこだましている。
「島田さん、今手術してる」
春樹が視線をそらす。
「肩を、ちょっとやられてね」
春樹とは短いつきあいではない。
春樹の表情が、「ちょっと」という怪我の程度を物語っていた。
「お前の名前を、何度も呼んでたぞ」
・・・ぼくの名前?
・・・ぼくの、名前?
卓也の足が、とうとう止まった。
島田さんが会いたいのは、僕じゃない。
歩。
そして、そして、僕は・・・
「僕は、もう歩には戻れないよ・・・」