かえりみち
幸一の胸の中で、何度も繰り返された光景が、またよみがえる。
偶然車で通りがかった目撃者から聞いた、歩の最後の姿。
静まり返った夜の闇の中、歩が一人、橋の欄干の上に立っていて。
ちらりとこちらを振り返り、不思議な笑みを浮かべて。
そして、橋の向こう側に姿を消したと・・・
「でもね。なんだか、死んだ気がしないんだよね。遺体が見つからなかったし」
幸一は、話題とはうらはらな乾いた明るさで話し続ける。
「だから、歩がどこかで生きてるような気がしてさ。小学生とか見ると、あれ?歩?って思っちゃうんだよ、おかしいよね、今生きてたら22歳じゃん?小学生なわけないのにさ」
「ごめん、知らなかったから」
「いや、いいんだ。むしろ、なんだか嬉しいな」
と言ってから、幸一は自分の気持ちを確かめるように口を一瞬閉じた。
なんだか、不思議な嬉しさだった。
「うん、嬉しいな。この14年、君の中で歩が生きてたってことが、なんだか嬉しいな。君とは違う意味でなんだけど、僕もそうだから」