かえりみち

・・・あぁ、天才同士の会話って、なんでこうも噛み合わないんだろう。

「いえ、ないですよ。コンクールには出てません」

面倒くさいので、安川が二人のさっぱり進まない会話を終わらせた。

指揮者・井上は大きくため息をつく。

「安川教授。こんな訳の分からん若者を出したら、お客さんに失礼ですよ。」
それに、この私にも失礼な話だし。

「ですよねえ。」

「かと言って…今からじゃ島田レベルのチェリストを用意するのも、難しいか…」

考え込んでしまう、安川と指揮者・井上。

卓也が、おずおずと口を開いた。

「あのぅ・・・」

「なんだね」

「話が、全然分からないんですけど」

「つまりな。島田が来週、東都フィルとコンサートやる予定だったっていうのは知ってるだろ? 島田がな、その代役をお前に頼みたいって言ってるんだよ」

今度は、卓也が叫んだ。
「え~!」


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