かえりみち

「本当は、14年前にこうしているべきだったんだが。ここから、まっすぐ自分の家に帰りなさい」

「父さん、僕は・・・」

「うちでの生活は」
正卓が卓也の言葉をさえぎった。
「悪い夢だったと思いなさい。もう家族ごっこはおしまいだ。そんな風にも呼ぶな」

「・・・もう会えないの?」

正卓の目つきが、険しくなった。
最初に自分を脅したときと、同じ目だった。

「勘違いするな。俺はお前の母親を暴行した男だ。お前は俺を憎むべきであって、懐かしむようなことがあってはならない」

この人は、本当のことを言ったためしがない。
言葉通りに受け取れと言われても、無理な話だった。

「それは本心?それとも、罪滅ぼしで言ってるの?」

正卓はそれには答えず、タクシーに乗り込もうとする。

「答えてよ!」

正卓が、振り向いて卓也を見た。

「幸せになれ。」

まっすぐに卓也を見る正卓の瞳には、一点の曇りもなかった。

「…それが答えだ」

正卓はそう言い残し、タクシーの中に消えた。


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