かえりみち
一つ手前のバス停で降りた。
坂道を登っていくバスを見送りながら、幸一はゆっくりと石段を登る。
長い長い、真っ直ぐの石段。
その石段の両側に広がる斜面は、今はただいろんな若芽が脈略なく生えている草原に見えるが、秋になれば一面のコスモス畑になる。
歩の背の丈ほどにも伸びたコスモスの中で、歩はよく石段のこのあたりに腰かけて、僕が帰ってくるのを待っていた。
幸一は、石段の中ほどで立ち止まって振り返る。
この場所からは街並みと、下の車道がよく見える。
幸一は、そのままそこに腰を下ろした。
母親と二人で、家にいるのが辛かったのだろう。
なんでそれを、「あのとき」まで気づいてあげられなかったのだろう。
「パパ!」
自分を認めたときに歩が見せた、パッと輝くような笑顔。
その笑顔の裏側で、歩は何を思ってここに座っていたんだろう。
助けを求めていたはずなのに、自分はちっとも気づかなかった。
結局それは起きて、
心も体も傷だらけになった歩は施設に入ることになって。
それを見送ったのもこの石段だった。
石段を一段飛ばしで降りていったけど、車には追いつけなかった。
歩は車の中で、うつむいたままだった。
それが、最後だった。