かえりみち


家に帰ってから、ある一つのドアをそっと開けた。

暗く静かな空気が自分を包み込む。
カーテン越しに入ってくる街灯の光が、室内のシルエットをかろうじてぼんやりと浮かび上がらせている。

子供用のベッド。
勉強机。
ランドセル。
望遠鏡。
飛行機のおもちゃ。

幸一は、中央に置かれた椅子に腰を下ろした。

もう一つの椅子に、子供用のチェロがたてかけてある。
その向こうに譜面台があって、黄色くなった楽譜が置かれている。

幸一はその楽譜をそっと手にとった。
タイトルはない。




「パパ、ぼくこの曲、ちょっとだけ弾けるようになったよ!」

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