かえりみち

「いいか? 君はもう、プロのチェリストなんだ。この世界には、情状酌量なんて言葉はない。何があってもステージに立ち、最高の演奏ができなければ一流にはなれない。わたしの言っている事は冷酷に聞えるだろうが、それがこの世界だ」

「お前、そういう理由つけて、また逃げようとしてるんだろ」
桜庭がバカにしたようにせせら笑った。

「これからは島田さんを、父親だと思えばいいじゃないか」

春樹の一言に、幸一と卓也は思わず顔を見合った。

-そうだよ、卓也。
いや、歩。
帰っておいで。

「・・・」
幸一の願いとは裏腹に、卓也が顔を歪めて目をそらした。

「僕の父は、確かに悪人です。あの人がした事で、今も苦しんでる人達がいる。」

「だから・・・」

春樹の言葉を振り切るように、卓也は言葉を続けた。
「だけど。」




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