かえりみち
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大きなホールに、無垢なチェロの響きがあふれている。
満員の聴衆が見つめる、スポットライトの中に幸一はいた。

モーツァルトの無伴奏チェロソナタ。

演奏が終わると、一瞬の静寂の後、割れんばかりの拍手がわきおこる。

立ち上がり、穏やかな笑みを浮かべる幸一。
会場を見渡す。
拍手を続ける老若男女。

こんなにたくさんの人たちが自分の演奏を聞きに来てくれるなんて。
自分はなんと幸福なチェリストなのだろう。
それなのに、自分が本当に会いたい人は、
ここにはいない。

ここには・・・

そのとき、幸一の目が、
一つの客席に止まった。



そこに、歩がいた。


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