かえりみち

由紀子が、ポーチから紐のついた何かを幸一に渡した。
幸一はそれを、卓也の首にかけようとするが、ふと立ち止まる。

自分の目線の高さまで、すらりと伸びた卓也の後ろ姿。

「大きくなったね・・・」

由紀子が、それに答えるように言った。
「でも、あなたはいつまでも、わたしたちの子どもよ」

幸一が、卓也の首に手にしたものをかけた。
卓也の胸に下がる、幸一の家の鍵。

卓也はそれを手にとった。
「・・・」

「君には、君にしか分からない帰り道があるんだろう。それを通って、いつか必ず…帰っておいで。」

卓也の手がぎゅっと鍵を握りしめ、卓也は深くうなずいた。

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